欧米のポッドキャストなどで、警察の腐敗を告発したものがあり、時々聞くことがあります。
また、一部事実に基づいているBBCの警察ドラマ「Line of Duty」を全巻見ましたが、
イギリスでも警察の腐敗は根の深い問題であることを知りました。
どこの国でも殆どの警察官は正義感に燃えた人々だと思いますが、組織というものには必ず悪が潜入するのだとも思います。
上記画像の本は2020年に出版されましたが、日本警察の腐敗を追求した名著と言われているそうです。
要約します。
警察には国立大学など出身のキャリア組(超少数エリート)とたたき上げのノンキャリア組(大多数)がいる。
ノンキャリアは警察学校に入り、厳しく自由の無い生活に何年も耐え抜く
キャリアは警察大学校に入るが、くらべものにならないほど規則が緩く、「学生時代の延長のような楽しい3か月間」
日本の警察機構は警察庁長官をトップに、上から警視総監(東京都警視庁の場合)、警視監、警視正、警視、警部、警部補、巡査部長、巡査という階級で構成。警視正以上は国家公務員となる(それ以下は地方公務員)
ノンキャリアが目指せる最高の階級は警視正だが、警視昇進までキャリアだと4年弱と短いが、ノンキャリだと一生かかる。
警察で裏金づくりなどの不正を、ノンキャリが上層部に報告しようとしても握りつぶされ、過疎地に転勤させられたりする。(裏金作りは、捜査費などを偽の領収書を書いて資金プールし、上層部への賄賂や贈与、餞別やその他の目的に使うこと)
警察官の中には、押収したアダルトビデオや女性の検死写真を売って金を得る者もいる
目撃者や証人のでっち上げもあり、冤罪の温床になっている。
ヤクザと警察の癒着
警察の捜査四課は暴力団対策をする「マル暴」だが、ヤクザとの癒着は昔から噂されている。
刑事や巡査部長上がりのヤクザは存在する。逆にヤクザの運転手をしていた人が、警察官になったケースもある。
ヤクザの事務所に来て、それとなくカネやプレゼントを要求する警察人もいる。
組長が病気入院すると県警の偉い人が来て、何回も見舞い金を置いて行ったりした。
警察署長や本部長の転勤が決定すると、(ヤクザからだけでなく)何千万の餞別が業者や企業から集まる
1976年の話だが、暴力団からの収賄で逮捕された姫路署長は
200万円のスイス腕時計をはめるなど、身につけるものはすべて外国製の一流品でかため、神戸で料亭を経営する愛人には、300万円もする高級車を買い与え、夜ごと部下をひきつれては、バー、キャバレーを遊び歩いていたのである。(p.73)
また、違法なバクチを行う賭場が大阪には多くある。警察に目こぼし料を暴力団が払うのだが、年間に数千万円という話もある。
不正は警察内で暗黙の了解事項
警察の服務規程にはこう書いてある。
職員は、清潔にして、堅く身を持し、常に名利をしりぞけて、職務の公正を保持しなければならない。
しかしこれは有名無実化している。何故そうなるのか、著者小林道雄氏はこう説明。
ひと言で言うなら、構造腐敗とも言うべき体質の問題である。これまでの例に見られるように、上のほうの人間が公金を組織的に私している(自分のものにする)という意味で、けっして清潔でもなければ、堅く身を持しているわけでもないことはみな知っている。
警察の、キャリアを含めた上層部が(全員ではないでしょうが)甘い汁を吸う体質であることを、ノンキャリや現場の人達は皆知っている、ということでしょう。
不満も高まるのではないでしょうか。
さて、去年12月11日に、警察文化における東京と大阪の違いをこの本から要約しましたが、もう一回アップします。
警察の不祥事は大阪に多く、件数は西高東低と言われる。
東京の最初の警察は明治7年創設、最初の警察官いわゆる 邏卒(らそつ)は3分の2が薩長の元藩士で残りは失業中の武士だった。名誉や責任を重んじる文化であり、市民を守るよりも明治新政府という体制を守る体質だった。東京は未だにサムライポリスという雰囲気がある、という。地域に溶け込む風潮は少ない。
一方、大阪の警察は権力におもねず自治を重んじる市民によってつくられた。町人によって商業を守るために創設されたので、地域に溶け込みやすく、癒着が起きやすい環境となる。
東京にはさまざまな政治勢力や権力組織が集中しているので、警察署長になっても対応する事案が多い。しかし大阪には政治勢力などは少なく、署長になると相手は地域社会しかないため、交際範囲がおのずと広がり、誘惑も増える。飲食をおごられたり、カネを渡されるという誘惑だ。
東京では警視総監まで上り詰めても、政府要人や国会議員という目の上のたんこぶがあるが、大阪では警部補クラスでも十分地位があるとみなされる。そのため警部補や巡査長クラスの偽名刺がよく売れる。名刺入れに入れて知っているフリをすれば、商売につながりやすい。
儲かるならどんなきわどい商売でもするのが大阪。本出版当時の2000年まで、ノーパン喫茶や賭博ゲーム機がはやった。業者は手入れさえなければこっそり商売を続けることができる。東京はこういう場合、国会で法改正などを行って商売が続けられなくなる。
大阪の業者は不法な商売の取締りを逃れるために、手入れなどの事前情報を警察から手に入れようとする。業者は刑事を誘惑して飲み食いを供応するのだが、その為にわざわざ当人を尾行してどんなスナックに行くか、どんな女がいるかをチェックする。
これらの風潮を是正するのはキャリア役人が頼みの綱だ。大阪府警には警察庁のキャリアが東京から派遣されてくるが、彼らにとっては大阪は鬼門(縁起の悪い方角)。不祥事で自分の職歴に傷がつかぬよう、無事に東京に戻れるよう、必死に不正を見て見ぬふりをする。
引用します。
p174
大阪・兵庫は最も(警察)不祥事の発生率が高く、ヘタをすれば(キャリアも)処分どころか、自分が重傷を負いかねない。そこでキャリアの最大の関心事は、いかに自分の任期中に不祥事を免れるかということになる。優秀な人間に頑張ってもらうはずだった趣旨が、結局
”触らぬ神にたたりなし”とばかり、首をすくめて任期の終わるのを待つトップや幹部たちを生む。そうした姿勢と無為無策が、さらに大阪府警を難しい警察にしてしまっているのである。
この他にも、定年を迎えるノンキャリアの警察勤務者は、東京に比べて大阪ではしっかり再就職先を在職中に見つけるそうです。
関西で再就職先を見つける警察官の場合、
この場合、とくに危険なのは暴力団との付き合いが多い保安や四課(マル暴)の警察官だ。
(中略)
警察を辞めた時、あるいは辞めようと思う時、一番行きやすいのは、直接関わってノウハウを知っている犯罪の世界だったということだ。
朱に交われば赤くなる、ということのようです。
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